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札幌高等裁判所 昭和34年(ツ)24号 判決

上告人 東札幌建設株式会社

右代表者代表取締役 竹中三郎

右訴訟代理人弁護士 林信一

被上告人 新川信次郎

右訴訟代理人弁護士 鎌田勇五郎

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌地方裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人林信一の上告理由第二点について。

本件記録によれば、上告人は、被上告人が「新川木工場」という自己の商号を使用して製材販売業を営むことを訴外新川隆男に許諾していたから商法第二三条により本件取引の責任を負うべき旨主張して、甲号各証を提出し証人西川正一の各証言を援用したのに対し、原判決は被上告人の援用する人証のみによつて「新川木工場は控訴人(被上告人)の先代が大正六年四月一日開業し、後昭和二十九年九月七日株式会社に組織を改め、商号も株式会社新川木工場と称し控訴人が取締役社長として営業を続けてきたが昭和三十年五月三十一日同会社が倒産した為同年六月以降は訴外新川隆男が新川木工場の商号で個人経営していた」との事実を確定し、「他に右認定を覆すに足る証拠はない」として、上告人の前記主張を排斥しているのである。しかしながら、上告人の提出援用にかかる証拠のうち成立に争いのない甲第二号証(札幌地区林材協会の証明書)には「昭和三十二年度に於ける北海道木材業者及び製材業者登録条例に依る登録は左記の通りである事を証明します一、登録番号第二十二号、一、工場名称新川木工場、一、所在札幌市北三条東十丁目、一、代表者名新川信次郎」という記載があり、成立に争いのない甲第四号証の二(石狩支庁長の証明書)には「札幌市北三条東十一丁目新川木工場代表者新川信次郎右者自昭和三十年度至昭和三十二年度の三年度にわたり右の代表者名で北海道木材業者及び製材業者登録条例(昭和三十年北海道条例第六十号)による製材業者登録をしている事を証明……する。記、昭和三十年度製材業第三十一号新川信次郎、昭和三十一年度製材業第一〇四五号新川信次郎、昭和三十二年度製材業第二十二号新川信次郎」という記載があり、甲第四号証の三(札幌地区林材協会の証明書)には「札幌市北三条東十一丁目新川木工場代表者新川信次郎右者昭和三十年度以来昭和三十三年三月三十一日現在迄右の代表者名で北海道条例木材業者製材業者登録をしている事を証明します、尚ほ新川隆男名義で登録したことは一回もありません」という記載がある。そうして北海道木材業者及び製材業者登録条例(昭和三十年九月一日北海道条例第六〇号)によれば、木材業者または製材業者は右条例の定めるところにより登録を受けなければならないことになつている。のみならず、口頭弁論の全趣旨によれば、札幌市北三条東十一丁目新川木工場の土地建物はいずれも被上告人の所有に属し、訴外新川隆男は被上告人の次男であつて右の場所において右の土地建物を使用して製材をなし本件の取引を行つたことが明かである。そうとすれば、他に特別な事情がない限り、被上告人が「新川木工場」という商号で製材販売業を営んでいたか、または「新川木工場」という自己の商号を使用して製材業を営むことを新川隆男に許諾していたものと認めざるを得ない筋合といわなければならない。ところが原判決は上告人の提出援用にかかる前記の各証拠について十分納得のゆく説明を与えることなく、また特別な事情についてもこれを示すことなく、単に「右認定を覆すに足る証拠はない」としてたやすく上告人の主張を排斥していること前述のとおりであるから、原判決のこの判断は判決に理由を附さない違法がある場合に該当するものにほかならず、この点において論旨は結局理由あるに帰し、原判決は破棄を免れない。

よつて他の上告理由に対する判断を省略し、民事訴訟法第四〇七条第一項に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐瀬政雄 裁判官 臼居直道 安久津武人)

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